海で魚を養殖するための生け簀

アメリカで史上初の遺伝子組み換えサーモンが認可されました。

MIT(マサチューセッツ州工科大学)やハーバード大学があるマサチューセッツ州に本拠を置くベンチャー企業、アクアバウンティ・テクノロジーズ社(AquaBounty Technologies, Inc.)が開発したアクアドバンテージ(AquAdvantage)というブランド名の鮭です。アトランティック・サーモンをベースに遺伝子組み換え技術を用いて養殖されます。

AquaBounty Technologies, Inc.

  • Aqua:水
  • Bounty:賜物、恵み

を組み合わせた社名のアクアバウンティ・テクノロジー社は1991年設立(参考:AquaBounty Technologies』Wikipedia)で、1993年ごろから遺伝子組み換え鮭の開発を始めたようです。

In 1993, AquaBounty’s CEO had the idea of pairing the two revolutionary technologies.
出典:『Technology』(AquaBounty Technologies, Inc.)

本拠地はアメリカ・マサチューセッツ州にありますが、養殖を行う場所はカナダとパナマです。

AquAdvantage salmon:アクアドバンテージ・サーモン

アクアドバンテージ(AquAdvantage)は、史上初めて認可された食用の遺伝子組み換え動物です。

従来の養殖サーモンと同じ種でアトランティック・サーモンですが、通常のアトランティックサーモンがノルウェー産かチリ産で海で養殖されるのに対し、アクアバウンティのアクアドバンテージ・サーモンは地上の水槽で養殖されます。

使われる遺伝子関連技術は2つあります。

雌の3倍体

野生に存在する動物は、遺伝子のセットである「染色体」を2組持っています。これを2倍体と呼びますが、養殖サーモンであるアクアドバンテージは染色体を3組持つ3倍体です。

雌の3倍体は生殖できないので殖えないはずという点と、産卵しないので味が落ちないというメリットがあります。受精卵に特定の刺激を加えることで作られるものが主のようです。

これだけだと、「へぇ、すごいなあ」というだけですが、実は「養殖される魚では、3倍体は普通にある」のです。知りませんでした。たとえば、長野県には信州サーモンなるサーモンが開発されていて、トラウトとニジマスの雑種第一代(F1)だそうです。

遺伝子操作を意図的に起こしているので、遺伝子組み換えサーモンと呼びたいところですが、遺伝子操作は行っていますが遺伝子自体に人の手を加えているわけではありません。

遺伝子導入

3倍体であることに加えて、遺伝子導入を行っている点が他の養殖魚と大きく異なります。遺伝子導入の方法はわかりませんが、キングサーモンの成長ホルモンの遺伝子をアトランティック・サーモンに組み込んでいるようです。

ニュース記事によって書かれ方が違っていますが、Wikipediaの

Their hybrid Atlantic salmon incorporates a gene from a Chinook salmon, which bears a single copy of the stably integrated α-form of the opAFP-GHc2 gene construct at the α-locus in the EO-1α line (Ocean Pout AKA Eel).
出典:上記Wikipedia記事

という記載を信じた上で総合すると、アトランティックサーモンにキングサーモンの成長ホルモン遺伝子をウナギの遺伝子座を使って組み込んだ遺伝子組み換え鮭であるようです。

記事『アクアバウンティ社のアクアドバンテージ、史上初の遺伝子組み換え鮭』で見たCNN.co.jpの記事では「遺伝子組み換えの表示が不要」と認可されているようですので、少なくとも動物実験に使うようなウイルスを使ったり、ウイルス・バクテリア由来の遺伝子を使うような導入方法ではないと思います。

もともと3倍体は遺伝子組み換えとして扱われておらず、さらにキングサーモンの遺伝子を与えただけだったら、表示不要というのも分からなくはないのですが、別種のはずのウナギが使われていて「construc」(構築)されているのなら、表示が必要ないのは何故かわかりません。

アクアバウンティのアドバンテージ

アクアバウンティ社のアクアドバンテージ・サーモンのアドバンテージは、アクアバウンティ会社のウェブサイトなどによると、

  • 2倍早く成長する
  • 海ではなく陸地で養殖する

の2点に集約されます。この2つの利点によって、

  • 早く陸地で養殖するので、
    • 重金属などの有害物質の蓄積や寄生虫の感染が起こりにくい
    • 抗生物質を使わずに養殖できる
  • 早く養殖できるので、
    • 餌が25%少なく済む
    • 早く出荷できる
  • 陸地で養殖するので、
    • 海洋汚染を起こしにくい
    • 消費地から近くで養殖でき、輸送によるCO2発生が少ない

が副次的に起こるとされます。本当でしょうか?

なんとなく正しいように思いますが、本当とはにわかには信じられない項目が2つあります。一つは、餌が25%少なくて済み早く成長するために、最終的に与えた餌と同じだけ大きくなると書かれている点です。餌を3kg食べさせたら、サーモンが3kg分取れるという意味です。本当だったらすごいですが、さすがに誇張ではないかと思います。

もう一つは、海洋汚染を起こしにくいと言っている点です。水を浄化すれば水質汚染を起こすことは理論的にはありませんが、工場の排水と同じで本当に綺麗なのか、と言ったら微妙な気がします。実際に計画通りに除染をするとは限らないというのは、残念ながら日本でも外国でも同じだと思います。

不安な点

逃げ出す可能性

遺伝子組み換えサーモンが、外洋に逃げ出す可能性は非常に低いはずです。が、持ち出されたりする可能性や、カナダからの輸送中に逃げ出す可能性がないかというとゼロではないと思います。仮に、逃げ出したとしても雌の3倍体であれば、繁殖できないはずです。

海での養殖では、日本でも逃げ出して問題になったことがあるようです。

3倍体を放流してしまった例…福井県の養殖場(漁業組合と大喧嘩に発展しました)
ニジマスの3倍体から発生したらしい中で”ドナルドソン”と呼ばれるものは成長が早く、養殖対象として重宝されているようです。
出典:『ところで時々耳にするサケ・マス「倍数体」って何なのさ』サツキ・サクラマス・渓魚の生態考察

食べることによる悪影響

遺伝子組み換えサーモンを長期間にわたって食べた人間は今までに居ません。安全であるはずですし、遺伝子導入方法に何か隠れたところがなければ通常の養殖サーモンより安全性が高そうな気はします。

でも、思い出したいのは、マーガリンです。僕が子供の頃、バターよりも健康に良いといって食べられていましたが、今では、ヨーロッパでは厳しく規制されアメリカでも2018年6月以降製造・販売、輸入が禁止されます。ハム/ベーコン/ソーセージなど加工肉がガンの危険を高めるとして発がん性物質に指定されたりもしました。

人工的に抗生物質や殺虫成分を作らせている遺伝子組み換え農作物よりはアクアドバンテージの方が良いのかもしれませんが、アクアドバンテージの後に出てくる後発では、抗生物質を発生する遺伝子組み換えがされるかもしれませんし、スーパーに並んでいたら区別がつきません。

日本で売られるときがくるとしたら、遺伝子組み換えマークはつくのでしょうか?

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