中国の注意喚起用看板

一昨日2015年3月18日にチュニジアであった博物館襲撃事件に関して、外務省から海外安全情報が出たのでウェブサイトを見ていたところ、さまざまな過激派に関する安全情報にまぎれて、鳥インフルエンザへの注意喚起が出ていたので、勉強がてら読みました。今のところ、ヒトからヒトへの感染確定例はないようです。

タイトル画像は中国で撮影されたH7N9への注意喚起のポスターです。また、この記事では引用に下線を多く引いていますが、その部分はサイト管理人による改変です。まず、外務省安全情報からの抜粋です。

中国の鳥インフルエンザA(H7N9)のヒト感染症例

2015年03月13日

※ 海外では「自分の身は自分で守る」との心構えをもって、渡航・滞在の目的に合わせた情報収集や安全対策に努めてください。

鳥インフルエンザA(H7N9)のヒト感染症例

(1)中国における鳥インフルエンザA(H7N9)について、昨年11月以降、新たなヒト感染例が報告されています。

 中国の国家衛生・計画生育委員会(NHFPC)は3月11日現在,平成26年11月以降平成27年2月までの鳥インフルエンザA(H7N9)のヒト感染例について,次のとおり公表しています。

 2014/11 感染者報告数 9例  うち死亡  4人(致死率44.4%) 
 2014/12 感染者報告数 19例 うち死亡  4人(致死率21.0%)
 2015/01 感染者報告数 83例 うち死亡 28人(致死率33.7%)
 2015/02 感染者報告数 59例 うち死亡 27人(致死率45.8%)

(2)2015年1月21日から2月25日までのヒト感染発生例を59報告しました。同報告では、このうちの83%(49例)に生きた家禽との接触又は生きた家禽を扱う市場との接点があり、6例は感染経緯が不明とされています。2月期の患者発生地域は以下のとおりとされています。

 広東省(35例)、浙江省(11例)、安徽省(4例)、江蘇省(3例)、湖南省(2例)、福建省(1例)、江西省(1例)、上海市(1例)、貴州省(1例)

(3)また、香港では、昨年12月以降、広東省からとみられる輸入感染例が3例報告されています。

以下の注意事項を参考にすることをお勧めします

  • 生きた鳥を扱う市場や家禽飼育場への立入を避ける
  • 死んだ鳥や放し飼いの家禽との接触を避ける
  • 鳥の排泄物に汚染された物との接触を避ける
  • 手洗い、うがいにつとめ、衛生管理を心がける
  • 外出する場合には、人混みは出来るだけ避け、人混みではマスクをする等の対策を心がける
  • 呼吸器感染症の症状が現れた場合には、速やかに最寄りの医療機関を受診する

以上、外務省海外安全情報より改変しました。詳しくは元のページを参照ください。

 

新型インフルエンザ

鳥インフルエンザといえば、2009年の新型インフルエンザの流行前に、パンデミック(世界的大流行)を起こすのではないかと注目を浴びていた存在です。その後、メキシコから始まったH1N1型新型インフルエンザの流行とともに、かなり忘れ去れた存在になっていました。

H1N1新型インフルエンザ(今や新型ではないですが)は、ウィルスの名称は、「A型H1N1亜型インフルエンザ」、「swine flu」、「H1N1 flu」、「A/H1N1 pdm」「A(H1N1)pdm09」などのバリエーションがありますが、いずれも同じものを指しています。豚インフルエンザ(swine flu)と当初呼ばれていたように、豚で流行していたものがヒトに感染するようになったものです。

当初は、高い致死率が報告されていたのですが、致死率は季節性インフルエンザ以下の0.045%とされました。(2009年9月30日報告)

(参考資料:『2009年新型インフルエンザの世界的流行』ウィキペディア 最終更新 2014年10月20日 (月) 02:13)

高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)

鳥インフルエンザのうち、今までヒトへの感染が話題になっていたものはH5N1というタイプで、2003年にヒトへの感染が確認されてから2014年1月までの10年あまりの間に649名の感染があり385名が亡くなっています。致死率はほぼ60%になっており、エボラ出血熱に匹敵するほどです。2015年3月21日現在CDCのウェブサイトでは700名以上の感染が報告されているとありますので、昨年は少なくとも50名以上の感染が報告されているようです。英語では、Highly Pathogenic Asian-Origin Avian Influenza A H5N1(HPAI H5N1)と呼ばれています。(下記画像:2014年1月までの感染マップ)Handwashing helps! Learn how to protect yourself from germs.

ヒトからヒトへの感染は家族間で報告されているものの、少数です。また、致死率は高いものの特に今増えているというわけでもなさそうです。そのため、主にインフルエンザに感染した鳥類への接触を絶つことが主な対策になっています。

H5N1インフルエンザの人への感染例

参考:アメリカ疾病予防管理センター(CDC)

低病原性鳥インフルエンザ(H7N1~H7N9)

2015年3月の外務省からの安全情報に繋がった鳥インフルエンザは、高病原性鳥インフルエンザであるH5N1ではなく低病原性鳥インフルエンザ(Low Pathogenic Avian Influenza A Viruses:LPAI)といわれるH7に属するH7N9です。ヒトに感染することはめったにないといわれており、感染したとしても「結膜炎(目の感染、赤くなって目やに)か上気道炎(のどの痛みなど、いわゆる風邪)で発熱はない」というものでした。CDCのウェブサイトには、北米での感染例が載っています。

  • H7N2(バージニア州 2002年)
    • 低病原性鳥インフルエンザH7N2の(鳥の間での)流行のために、七面鳥と鶏を殺処分していた農場の労働者がインフルエンザ様症状を発症したが回復した。
  • H7N2(ニューヨーク州 2003年)
    • 呼吸器系の疾患で入院中の成人男性からH7N2が発見された。感染源は不明で男性は回復した。
  • H7N3(カナダ 2004年)
    • British Columbiaで低病原性鳥インフルエンザH7N3が(鳥の間で)流行した際に、殺処分にかかわった2名の作業員もしくは接触があった労働者からH7N3が分離された。症状は結膜炎と軽い風邪で、抗インフルエンザ薬(タミフル)を使用して回復した。他にも、作業員約10名が同様の症状を発症したが全員軽症。適切な防護措置はされていたのが確認されている。この流行でLPAIからHPAIに進化したと書いてあるが詳細不明。

他に、別のタイプであるH9N2もヒトへの感染が報告されています。

基本的には低病原性に分類されるH7型の鳥インフルエンザウイルスなのですが、

In humans, LPAI (H7N2, H7N3, H7N7) virus infections have caused mild to moderate illness. HPAI (H7N3, H7N7) virus infections have caused mild to severe and fatal illness.
出典:『Avian Flu』CDC

両方に分類されるものもあります。

 「低病原性」なら良いのか?

「低病原性」のほうが安全かというと、残念ながらそうではありません。

低病原性鳥インフルエンザ、高病原性鳥インフルエンザという分類は、「ウイルスの分子を解析した結果と、ウィルスを研究室内で鶏に感染させたときの症状と致死率」から決められているため、ヒトへの病原性には関係ありません。

これは、日本の国立感染症研究所のウェブサイトにも記載がありました。

家禽における疾患の重症度に応じて二つのカテゴリーに分類することができます。それらは、鳥においては、典型的にはほとんど、あるいは全く臨床症状を 引き起こさない低病原性鳥インフルエンザウイルス(LPAI)と、鳥においては重度の臨床症状や高い死亡率を引き起こす高病原性鳥インフルエンザウイルス (HPAI)です。低病原性および病原性を有する鳥インフルエンザの間の区別は、OIEの診断マニュアルで説明されているように、検査の結果に基づいてい ます。低病原性または高病原性(疾患の重症度)としての鳥インフルエンザウイルスのこの特徴付けは家禽の種に特有のものであり、人を含む鳥インフルエンザ ウイルスに感受性であり得る他の種には必ずしも特有ではありません。


出典:『インフルエンザA(H7N9)に関する質問と回答』国立感染症研究所(ただし、この文章自体が英語の和訳です)

そのため、鳥には低病原性なのにヒトには高病原性というウイルスが原理的には一番厄介なものだと考えられます。CDCのウェブサイトには記載がありませんが、上記のQ&Aには「低病原性」と記載されています。

人間へのHPAI H7N9の感染

上述の国立感染症研究所のページには、

インフルエンザA(H7N9)とは何ですか?

2013 年3月に、中国の公衆衛生当局は、H7N9型株のインフルエンザウイルス感染に起因する最初の人症例を報告しました。ウイルスのこの株は通常、鳥に感染す るものであり、その報告を受けて、中国の鳥におけるサーベイランスが強化されました。 2013年4月4日に、中国の獣医当局は、低病原性鳥インフルエンザウイルスH7N9によるハトや鶏への感染の発生があったことを国際獣疫事務局 (OIE)へ通知しました。このことは、ウイルスが人に感染していることと非常に類似していることを示唆するものです。この低病原性鳥インフルエンザウイ ルスは、動物に重度の臨床症状を起こさないので、具体的な実験室診断テストを行うことができるようになる前には、疾患は診断されていませんでした。

とありますが、最初にこのウイルスによるヒトへの感染が見つかったときに、何が問題になったかというとこのH7N9にヒトに感染しやすい変異が見つかったことと、そのインフルエンザウイルスに感染した患者が死亡したことでした。

中国でこれまで少なくとも2人が死亡し、5人が重体になっている、鳥インフルエンザの「H7N9型」のウイルスは、遺伝子の一部がヒトに感染しやすく変異していることが、国立感染症研究所の分析で分かりました。...


国立感染症研究所は、中国当局から、ヒトへの感染が相次いで明らかになったH7N9型の鳥インフルエンザウイルスの遺伝情報の提供を受け、遺伝子の配列などを詳しく分析しました。 分析したのは、はじめに感染が確認された上海市の男性2人と安徽省の女性1人から分離されたウイルスの情報で、いずれも、ウイルスの増えやすさを決める特定の遺伝子が、ヒトの細胞の表面に感染しやすく変異していました。 このうち、上海市の一方のウイルスと安徽省のウイルスは変異した遺伝子の配列が一致していたということで、広い範囲で感染が広がっているおそれがあると指摘されています。


出典:『H7N9型 ヒトに感染しやすく変異』(NHK 2013/4/3)→既にニュースが削除されているのでウェブ魚拓

これらの経過については、作成者・編集者が不明ですが日本語のWikipedia『H7N9鳥インフルエンザの流行』に非常に詳しく書いてあります。その後、ヒトへの感染はいったん収束していて、上記のウィキペディア記事は、「最終更新 2014年8月23日 (土) 13:13」で停止しています。(これは、Wikipediaを編集する人は義務ではなく、仕事でも基本的にはないことのせいかもしれません。)

英語バージョンだともう少しコンパクトですが、こちらもここ数ヶ月の感染者数増加については記載されていません。2013年のヒト感染者数について、グラフが公開されていました。2013年3月から4月にH7N9のヒト感染例が増える様子

ここから分かることは、最初に発見されてからの1ヶ月程度の間に100名以上の感染があったということですが、先のNHKの記事を見ると、4月3日に変異が見つかっているので国立感染症研究所と中国当局の仕事がものすごく早かったということですね。

2015年に入ってからの感染者数は、この最初のアウトブレークよりは少ないですが、それでも急激に増えていますので、注意が必要そうです。日本の国立感染症研究所でも、アメリカの疾病予防予防管理センター(CDC)でも今回の患者数増加については記事になっていませんが、ニュース化されてはいます。

H7N9型ウイルスは2013年3月に人に感染。世界保健機関(WHO)が発表した2月のデータによると、これまでに、中国、台湾、香港、マレーシア、カナダで少なくとも571人が感染し、212人が死亡している。 中国政府が生きた家禽の市場を閉鎖し、鶏との直接の接触によるリスクについて警告を発したことなどで、いったんは収束したかに見えたが、昨年再び人への感染が増加した。 研究報告は「(ウイルスの)拡大と遺伝子の多様性、地理的拡大は、有効な制御措置が講じられなければH7N9型ウイルスが地域を越えて存続・拡大する可能性を示唆している」と述べた。
出典:『H7N9型鳥インフル、突然変異でパンデミックの恐れ=研究報告』(ニューズウィーク 2015/03/12)リンク切れのためリンクを削除しました

研究の結果、H7N9ウイルスは主に生きた家禽類を扱う市場の生きたニワトリの中から検出されていたことから、生きたニワトリは依然として人類がH7N9ウイルスに感染する直接の感染源であることが分かった。またウイルスの主な繁殖と排毒はいずれも生きたニワトリの口中咽頭と呼吸器で行われているという。


出典:『研究により、生きたニワトリは依然として人類がH7N9ウイルスに感染する直接の感染源と発見』(新華通信社 2015/3/13)

市場の生きたニワトリから検出されているということですので、僕らが出来ることは「現地の人には大丈夫でも、自分には大丈夫ではないと信じて近づかないこと」でしょうか。

なお、WHO(世界保健機関)のホームページでは、今回のアウトブレイクにも言及していて今のところパンデミックに至るリスクは変わらないということです。ただ、前回からは全般的には変わらないという記載が延々と続き、途中でリンク切れに。非商用で出典明記すれば許可されているようなので、詳細の一部を下記に転記します。(翻訳は不許可)


What is the likelihood that additional human cases of infection with avian influenza A(H7N9) viruses will occur?

The understanding of the epidemiology associated with this virus, including the main reservoirs of the virus and the extent of its geographic spread among animals, remains limited. However, it is likely that most human cases were exposed to the H7N9 virus through contact with infected poultry or contaminated environments, including markets (official or illegal) that sell live poultry. Changes to hygiene practices in live poultry markets have been implemented in many provinces and municipalities. Since the virus source has not been identified nor controlled, and the virus continues to be detected in animals and environments in China, further human cases are expected in affected and possibly neighbouring areas.

What is the likelihood of human-to-human transmission of avian influenza A(H7N9) viruses?

Current evidence suggests that this virus has not acquired the ability of sustained transmission among humans. It is possible that limited human-to-human transmission may have occurred where there was unprotected close contact with symptomatic human cases. Most of reported clusters (17 to date) involved two people (except for one cluster of three people) with potential common exposure and no further human-to-human transmission was reported. No clusters reported have involved healthcare workers. Among the three family clusters reported to WHO on 4 February 2015, all the index cases reported exposure to live poultry or their environment. However, in two of these clusters, secondary cases may have been infected through close contact with the index cases, not excluding limited, unsustained human-to-human transmission. All these suggest that the transmissibility of the virus among humans remains low.

出典:『WHO risk assessment of human infection with avian influenza A(H7N9) virus』(WHO 2015/2/23)


グラフは横軸に年(2015)-週(1~52、1月は1~4など)になっています。今回の2015年アウトブレークは、前回(2014年初頭)前々回(2013年3月)と比べて今のところ症例数が少なく見える(ただし、まだ終わっていないので不定)ことと、グラフ的にはこのまま収束するかもしれない、というように見えます。

いずれにしても外務省安全情報にあったように、

  • 生きた鳥を扱う市場や家禽飼育場への立入を避ける
  • 死んだ鳥や放し飼いの家禽との接触を避ける
  • 鳥の排泄物に汚染された物との接触を避ける
  • 手洗い、うがいにつとめ、衛生管理を心がける

を守れば最低限の安全は守れると思います。

August 2017
Mo Tu We Th Fr Sa Su
31 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 1 2 3

ログイン(DISQUS/Facebook/Twitter/Google)なしでもコメントでき、その場合管理人の承認後表示されます。