2015年10月14日、権威が高い医学誌「New England Journal」誌にエボラ出血熱から回復した男性の精液に高率でエボラウイルスが存在しているという論文が出ました。以前、エボラ出血熱から回復した医師の目にエボラウイルスが残っていたという報告もありました。(参考:『エボラ治癒後、眼にウイルス』)

2つの共通点や違う点について考えます。

エボラ回復者の精液

回復した男性93人が提供した精液を分析。49%に当たる46人の精液から、エボラ出血熱のウイルスの遺伝子が確認されたという。
 このうち、発症から2、3カ月後の9人の精液からはすべてウイルスの遺伝子を検出。発症後4~6カ月たった40人の場合では65%、発症後7~9カ月の男性43人でも、26%でウイルスの遺伝子が検出された。
出典:『エボラウィルス、精液に残存 回復男性の5割 WHO』(朝日新聞デジタル via Yahoo!ニュース)

ニュースの元になった論文は、2015年10月14日発行のアメリカの医学誌「the New England Journal of Medicine」(ニューイングランドジャーナルオブメディスン;NEJM)に出ています。

Ebola RNA Persistence in Semen of Ebola Virus Disease Survivors — Preliminary Report』(N. Engl. J. Med.)DOI: 10.1056/NEJMoa1511410

全文を無料で読めそうな気がします。

解析方法:RT-qPCR

ウイルスの検出方法は、RT-qPCR(文中では、RT-PCR)です。RT-qPCRは、微量の病原体を見つけるのに良く使われる方法です。

採取したサンプルを消化して、その中に含まれるウイルスRNAを高感度で検出し、量を推定するものです。採取して検出する際に、ウイルスを破壊してしまいますので、ウイルスが体内で生きていたのか、ウイルスが不活化された残りカスなのか、通常は判断できない方法なのが欠点です。

この点は、論文中でも書かれていました。文章を引用するのにも数十ドル請求されるのは辛いので書いておくと、文中でviable、cultureというような表現が出てくる箇所です。

回復7–9ヵ月後に26%で検出

感染力があるかどうかはわからないものの、

  • 2–3ヵ月後 100%(9/9)
  • 4–6ヵ月後 65%(24/40)
  • 7–9ヵ月後 26%(11/43)

でウイルスRNAを検出したというのは、かなり高確率です。

回復者の精液から感染した死亡例

同じ雑誌に、エボラ出血熱から回復した男性から感染し死亡した女性の症例報告が載っています。血液中からエボラウイルスが消えた155日後に感染し、感染した女性がなくなっています。

ウイルスの型が同一なので、他からの感染の可能性は低く、回復者の男性からの感染で間違いないようです。

エボラ回復者の眼内液

エボラ回復者の眼内液にウイルスが検出されたというのは、記事『エボラ治癒後、眼にウイルス』でも紹介した論文に書かれています。この論文もNEJMに掲載されました。

Persistence of Ebola Virus in Ocular Fluid during Convalescence』(N. Engl. J. Med. 2015; 372:2423-2427)DOI: 10.1056/NEJMoa1500306

こちらも全文無料で公開されています。

 感染力があるエボラウイルス

精液の論文と違って、眼内液の論文では、viable Zaire ebolavirus (EBOV)、つまり感染力のある状態のウイルスが検出されたと書かれています。

症状回復から14週間後、ウイルスが血中からなくなってから9週間後に検出されたそうです。

眼内液≠涙

この論文で検討された眼内液というのは、涙とは違います。眼内液は、眼球内部にある液体のことで、涙や結膜(白眼)からは検出されていません。眼内液を検査するには、眼を突き刺して液を吸い出す必要があります。

米国眼科学会が眼内液のエボラウイルスの件に関して声明を出しています。

米国眼科学会(AAO)は5月7日、ブドウ膜炎を発症したエボラ回復者に関するNewEnglandJournalofMedicine誌の報告を受けて声明を発表。今回の結果が軽い接触によるエボラウイルス感染リスクの増大を示すものではないことを改めて強調した。
出典:『エボラ回復期の眼球にウイルスで声明【米国眼科学会】』(m3.com)

精液と眼内液

精液は、精巣(睾丸)で造られる精子と精巣上体(副睾丸)液、前立腺液、精嚢液の混合物です。眼内液は、虹彩(アジア人では「茶目」)の裏あたりにある毛様体が造る房水と硝子体の混合物ですが、検査で使われるのは通常は房水です。

精巣と毛様体の共通点

精液を作る精巣と眼内液を作る毛様体には共通点があります。精巣は血液精巣関門、毛様体(を含む内眼部)は血液房水柵という構造で守られていて、免疫細胞が精巣・眼内に入ること、また大きなタンパク質が精巣・眼と血液の間で行き来することを防いでいます。

精巣と毛様体の相違点

逆に、精巣と毛様体の違う点は、精巣は外部に分泌する精子を作っているのに対して、毛様体で作られる房水は眼の中を巡回し、体外に出ることなく静脈やリンパ管に吸収されます。

そのため、前出の米国眼科学会声明に書かれている通り、眼内液で検出されたとしても眼科の医療従事者以外に感染する可能性は限りなくゼロに近いと言えますが、精液の場合はそうではないというところが大きく違う点です。

また、眼内液は一日に何サイクルか再吸収される分が毎日作られますが、精子は3ヶ月程度かかって作られます。(精液自体は毎日作られます。)

他の同様組織は?

血液精巣関門、血液房水柵のように免疫から守られている状態をimmune privilegeと呼びます。(日本語で習った気がするのですが、なんと忘れてしまいました。)

Immune privilegeは、

  • 脳・脊髄:血液脳関門
  • 眼:血液眼関門(血液網膜関門や血液房水柵)
  • 精巣:血液精巣関門
  • 胎児:胎盤関門

の4つを指しますが、最近は血液脳関門については違う認識があるそうですので実質的に眼と精巣だけなのかもしれません。(胎盤関門は、母胎の免疫が胎児を攻撃しないもので、妊娠中期以降にしか存在しません。)

Immune privilege

Immune privilegeが成立していると、エボラウイルスに対する免疫が成立して、血液中や尿中からエボラウイルスが排除された後も、精巣や眼内に入り込んだエボラウイルスへは免疫からの攻撃が及びません。

全身や局所で炎症が起こっている場合には、血液眼関門や血液精巣関門は障害されて免疫細胞が行き来できたり、大きい粒子も素通りになってしまいます。そのときにエボラウイルスが侵入したのかは分かりません。そうすると、血液脳関門も同じようだとすると、脳脊髄液(脳と脊髄の周りを満たす液)にも存在しているのかもしれませんし、ないのかもしれません。

NEJMの報告では、経過とともにエボラウイルスの陽性率が下がっていると言えそうです。徐々に排除されていっているのか、増殖できないので徐々に排出されて減っているのか分かりませんが、理解が進むということは、何とかできる可能性が拡がるということです。

エボラウイルスの感染源

エボラウイルスが感染する可能性があるのは、エボラ出血熱患者・回復者の体液と接触し、体内に取り込まれた場合です。

 エボラウイルスは患者の体液との直接接触でうつります。直接接触というのは、エボラ患者の血液や体液(尿、唾液、汗、糞便、吐物、母乳、精液)が、非感染者の眼、鼻、口、キズ(解放創や創傷部)に触れることです。
 また、感染した動物の体液に触れたり、動物を食べたりすることによっても感染します。
出典:『エボラ出血熱 Ebola hemorrhagic fever』(東京都感染症情報センター)

空気感染は知られていませんが、汗や唾液でも感染源になります。これが手に付いただけでは感染は成立しませんが、傷があったり、粘膜面(眼・鼻・口・性器・消化管など)に触ってしまうと感染します。

エボラ出血旗の患者は、症状が治まっただけではなく、エボラウイルスが検出されなくなったときに退院します。回復後に眼の症状を起こしたアメリカ人医師の場合(参考記事:『エボラ治癒後、眼にウイルス』)は尿と血液から検出されなくなったときに退院したと思います。

「回復者への差別」をなくすなら

エボラ出血熱とMERSの再発』の記事に引用したユニセフのページに、エボラ出血熱からの回復者や家族への差別が広がっていると書かれていました。

「握手するのをためらう」という人の話が書かれていて、それが差別であるという論調ですが、これまで出てきたデータを見る限り、現状ではそれがある程度合理的だと言わざるを得ません。回復者や家族の手に、感染性が残っているエボラウイルスが付いていないという保証がないからです。感染性のある体液がある家がきちんと処置されているかも回復した人の顔を見ても分かりません。

本人は免疫ができて感染しにくくなっていたとしても、周りに感染させないとは限りません。社会啓発活動の前に、いつまで感染性のあるウイルスが残っているのか、調べる活動をしてくれたらな、と思います。

家に残ったウイルスをなくすような活動は、他のNPOはしているところがありそうですが、ユニセフはどうなのでしょう。

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