「ペスト」という病気があります。イメージ的には、中世ヨーロッパの病気です。別名、黒死病と呼ばれていて、ヨーロッパでの大流行では人口の3割がこれで亡くなったそうです。

現代のアメリカにも残っていて、毎年患者が出るようですが今年は14人目の患者が出たとニュースになっています。また、今年はカリフォルニアのヨセミテ国立公園でも患者が出ています。

ペスト、黒死病 

日本では、昔は黒死病と呼ばれていました。感染症で嫌気性菌エルシニア属ペスト菌(Yersinia pestis)による病気です。

エルシニア属は、大腸菌などと同じ腸内細菌科で、エルシニア属の他の細菌は食中毒の原因菌になったりします。

嫌気性菌

「嫌気性」という名前は、「空う」ではありますが、エルシニア属を含めて多くのものは通性嫌気性と呼ばれるタイプで、空気も利用できるがなくても良いという、あまり嬉しくないタイプです。嫌気性菌は酸素がない状況でも生存、増殖できるので、真空パックでも油断できません。

ペストの症状

イメージ的には、ペスト・黒死病というと皮膚が黒くなって死ぬ病気なのですが、これは皮膚の感染症ではなくて、敗血症で血液の凝固に異常がおこって全身に出血斑が出る状態(DIC:播種性血管内凝固症候群)の状態に陥るためについた名前だそうです。

ペスト菌が体内に入って2~5日経つと、全身の倦怠感に始まって寒気がし、高熱が出る。その後、ペスト菌の感染の仕方によって症状が違い、次のような病型に分類されている。適切な治療がなされれば死亡率は20パーセント未満に下がる。

腺ペスト

リンパ腺が冒されるのでこの名がある。ペストの中で最も普通に見られる病型。ペストに感染したネズミから吸血したノミに刺された場合、まず刺された付近のリンパ節が腫れ、ついで腋下や鼠頸部のリンパ節が腫れて痛む。リンパ節はしばしばこぶし大にまで腫れ上がる。ペスト菌が肝臓や脾臓でも繁殖して毒素を生産するので、その毒素によって意識が混濁し心臓が衰弱して、多くは1週間くらいで死亡する。死亡率は50から70パーセントとされる。

ペスト敗血症

ペスト菌が血液によって全身にまわり敗血症を起こすと、皮膚のあちこちに出血斑ができて、全身が黒いあざだらけになって死亡する。ペストのことを黒死病と呼ぶのはこのことに由来する。

肺ペスト

腺ペストの流行が続いた後に起こりやすいが、時に原発することもある。かなり稀な病型。腺ペストを発症している人が二次的に肺に菌が回って発病し、又はその患者の咳によって飛散したペスト菌を吸い込んで発病する。気管支炎や肺炎をおこして血痰を出し、呼吸困難となり2~3日で死亡する。患者数は少ないが死亡率は100パーセントに近い。

皮膚ペスト

ノミに刺された皮膚にペスト菌が感染し、膿疱や潰瘍をつくる。

出典:『ペスト』(ウィキペディア 最終更新 2015/8/18 17:12)一部改変しています

日本のペスト

日本には、ペストは基本的にありませんでした。

ペスト患者数のピークは1907年で患者数は646人であった。紡績工場での患者発生が続き、国内での発生源はペスト流行地のインドから輸入される綿花に混入してきたネズミによるものであるというのが通説になった。1930年に2人の死亡者をだしたのを最後に国内のペスト発生は終わった。本来日本国内にはケオプスネズミノミは生息せず、したがってペストはなかったとされている。


出典:上記ウィキペディア

主な媒介生物として知られていた「ケオプスネズミノミ」という種類のノミが日本にいなかったからで、1930年を最後に85年間患者は出ていません。それでも、危険な感染症として、感染症予防法によって一類感染症(もっとも警戒される疾患)に指定されています。

日本で普通に暮らしている分には感染する危険はほとんどゼロだと思いますが、最近は海外から持ち込まれえる病気が増えていたり、以前はほとんどなかったデング熱のような病気が流行したりするので、絶対ないとはいえません。

海外旅行するとき・・・

気を付けなくてはいけない点は、海外旅行に行く場合、行った場合に、その地域で流行している病気について知っておくこと、また帰国後に何か不調が出た場合には、医師にそれを伝えることです。

最近話題になった病気には、エボラ出血熱だったり、MERS(中東呼吸器症候群)があります。

いずれも日本で感染する危険はありませんが、たとえば中東に旅行したことを医師に伝えなければ診断されて治療を受けられる可能性はあり得ません。MERSの場合も、韓国で最初に発症した患者はいくつもの病院を渡り歩いたものの、中東にいたことを伝えていなかったとされていて、これが韓国での感染を広げた可能性もあります。

ペストの場合は、ウイルス性疾患ではなくて細菌感染ですので、診断がつかなくても抗生物質が投与されると思いますが、後から伝えても手遅れになることもありますので、海外旅行の時には頭の片隅に入れておくべきです。

アメリカのペスト

英語では、PestではなくてPlagueと呼ばれています。辞書的には、the plagueでペストのことを指すそうですが、ニュースを見ているとtheがなくてもペストのことのようです。

元の意味は「疫病」のはずなので、文脈から読み取らなくてはいけませんが、現代では「疫病」として使われることが稀で、疫病といいながらペストを念頭に置いている場合くらいしか「疫病」として使われる用法がないのではというような気がします。

アメリカのペスト患者は、最近は平均で年間7名程度のところ2015年は9月初頭時点で14名です。日本人にも人気が高い、ヨセミテ国立公園内でも発生しています

Between 1970 and 2012, the majority of human plague cases have been in New Mexico, Arizona and Colorado, the Centers for Disease Control and Prevention reports. There have been other cases, but they have been in nearby Western and Southwestern states.
...中略...
The United States, for instance, has seen an average of seven such cases annually in recent decades, according to the CDC. About 80% of those involve the bubonic plague.
The good news is that, for most people, the plague isn't the death sentence for most everyone that it was centuries ago, especially if it's detected early. It can be treated with modern medicine such as antibiotics and antimicrobials.
出典:『Bubonic plague reported in Michigan』(CNN.com)

過去40年間で、感染者が多く出ているのはニューメキシコ州、アリゾナ州、コロラド州です。CNNニュースにはミシガン州で発症した患者の話が出ていますが、この患者はコロラド州へ5日間の旅行をした後で発症していて、ハイキングをしたりキャンプ場に行ったりしたとされているので、そこで感染したと考えるのが自然です。

世界のペスト

日本を含め、多くの先進国ではペストは長い間報告されていません。

近年ペストが発生しているのは、主にアフリカ南部や南アメリカ、東南アジアです。ペルーやマダガスカルでも発生しています。アメリカでも発生していますが、数としては少ないです。

Distribution of plague cases, worldwide.  Data from WHO.
Distribution of plague cases, worldwide. Data from WHO.

参考:Plague(CDC)

バイオテロの懸念

シリア・イラクで勢力を伸ばしているISISがペスト菌を使ったバイオテロを実行する懸念もあるようです。

It would see thousands of victims become covered in huge weeping boils, before suffering a slow and painful death.
The bubonic plague has been taking hold across the west coast of America infecting people in six states and ISIS's thirst for shocking new ways to kill means an endemic is a real possibility.
As ISIS grows across the Middle East and links with other terror groups across the globe, Mr Ryan believes the nightmare scenario of Islamic extremists infecting people and launching a biological attack is closer than we think.
Speaking to Express.co.uk, he said: "I was speaking to a doctor over dinner and he broached the subject, saying it would be a huge problem if ISIS got hold of viruses like the plague.
"It could happen in the near future because of how they are changing the face of terrorism and it's changing at an alarming rate.
"They're trying to come up with different ways to kill people and also how to shock people. It's a real possibility."
出典:『EXCLUSIVE: Islamic State could unleash the plague and cause the BLACK DEATH 2』(EXPRESS)

ただし、EXPRESSはイギリスのタブロイド誌で、日本で言うと「夕刊フジ」とか「日刊ゲンダイ」のようなものです。時々スクープ記事があったりはしますが、信憑性的にはそんなものだとおもって流し読みしなくてはいけません。

ペスト菌は、炭そ菌や天然痘菌と並んでバイオテロに使われる危険がある細菌として以前からリストアップされています。ペスト菌は炭そ菌と違って、死滅させられない(芽胞形成)菌ではないですし抗生物質で治療できるので、少なくとも医療へのアクセスがある地域なら、高度に改変されていない限り大丈夫だと思います。。。たぶん。

参考:『生物兵器テロの可能性が高い感染症について』(厚生労働省ホームページ、2001年10月15日記事)

 

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