日本は梅雨が明けると夏、花火大会の季節です。アメリカ人も花火が好きで、日本と違って夏の風物詩ということもなく年中何かあれば花火(fireworks)を上げています。一番大きなイベントは7月4日の独立記念日ですが、元旦(New Year Day)も多くの町で花火が上がります。スポーツの試合でもあがったりします。

そんな花火が健康に良くないかもしれないという研究が、USATodayのニュースに出ていました。

花火の害悪

花火で健康被害といえば、ロケット花火があたったとか、並んでいて気分が悪くなったとか、そういったものがほとんどです。

今回の報告『Study: Fireworks cause a toxic brew of unhealthy air』(USA Today)は、花火が健康被害をもたらすとされている微粒子(PM2.5)を撒き散らすというものです。

このニュースで興味深いのは、花火の近くではなく全米を対象にした調査で、独立記念日にPM2.5の濃度が上昇していたという点です。

独立記念日はアメリカ全土で祝われる、アメリカの独立宣言を記念した祝日で多くの町で花火大会が催されます。

 

PM2.5(微小粒子状物質)

PM2.5は最近騒がれている環境汚染物質で、特に日本では中国大陸から飛来するとして度々ニュースに取り上げられています。PM2.5は概ね2.5μm(0.0025ミリメートル)以下の粒子のことをさしますが、日本のウィキペディアでは、

大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概ね2.5μm以下のもの。粒子径2.5μmで50%の捕集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。日本では訳語として「微小粒子状物質」の語が充てられる
出典:『粒子状物質』(ウィキペディア 最終更新 2015/5/12 19:12)

とされていますが、英語のウィキペディアでは、

so called fine PM, particles smaller than 2.5 micrometers, PM2.5,
出典:『Particulates』(Wikipedia last modified on 25 June 2015, at 10:05.)

と、粒子径が2.5μm以下のものとしているので、若干違います。 日本の基準では、2.5μmの粒子は半分取りこぼして計測していることになっています。

微粒子の大きさと捕集効率、名称の関係

 

PM10、PM2.5の健康被害

PM2.5よりも大きいPM10(概ね10μm以下の微粒子、PM2.5も含まれる)とPM2.5の健康被害について、多くの研究がなされています。アメリカでは年間22,000~52,000人、全世界では毎年320万人が微粒子による環境汚染のために亡くなっていると言われています。

微粒子による環境汚染で起こるとされているものは、肺がんなどの呼吸器系のガン、喘息の悪化、心臓発作などで、免疫系の異常を来たすという話もあります。いずれにしても良くなさそうです。

各種研究をまとめた2005年のWHOメタアナリシス報告によれば、PM10が10μg/m³増加した時の1日当たり死亡率は、呼吸器疾患によるものが1.3%(95%CI値 0.5-2.0%)、心血管疾患によるものが0.9%(同 0.5-1.3%)、全死因で0.6%(同 0.4-1.8%)、それぞれ上昇する。またアメリカがん学会の調査を利用したポープらの研究 ("ACS CPS II", 1979–1983) によれば同じくPM10が10μg/m³増加した時の長期的な死亡率は、心肺疾患で6%(95%CI値 2-10%)、全死因で4%(同 1-8%)、それぞれ上昇する。
粒子径の大小による健康影響の差異に関して、2008年の環境省の報告書では、PM2.5の方が調査が少なく統計的に有意である頻度が低かったものの、PM10とPM2.5共に死亡率(全死因)と正の関連があるとした。またその影響の推定値(増加濃度当たり死亡率過剰リスク)を、PM10においては濃度50μg/m³当たり約1~8%(複数都市調査では50μg/m³当たり約1.0~3.5%)、PM2.5においては濃度25μg/m³当たり約2~6%(複数都市調査では25μg/m³当たり約1.0~3.5%)、SPMにおいては濃度25μg/m³当たり約0.5~2%(呼吸器系死亡に限ると25μg/m³当たり約1~3%)とまとめている。
出典:上記ウィキペディア

そして一旦体に取り込まれると、

1.2μmの粒子で約8%、3.9μmの粒子で約40%が6日以内に除去され、長期的にはおよそ600日で半減するペースで肺から除去されている。一方、不溶性が高い粒子は長期にわたって肺に残留するものがあり、クレイリングとショイヒは2000年にモデル予測からこうした粒子の約3分の1が体内から除去されないと報告している。
出典:同ウィキペディア

と分解されずにずっと残ってしまうと考えられています。

 

PM2.5の環境基準

日本では一日平均値が35μg/m3以下、年間平均値が15μg/m3以下と定められています。これは、WHOの大気汚染指針の一日平均25μg/m3、年間平均10μg/m3よりも高いものですが、WHOの暫定目標一日平均37.5μg/m3、年間平均15μg/m3とほぼ同等です。アメリカの環境基準jは日本とほぼ同じです。

中国の上海や北京では時々非常に高濃度になることがあり、外出を控えるようにと報じられることがあります。

 

花火でのPM2.5上昇

中国では、春節(中国の旧暦新年、大体1月末~2月)を祝う爆竹でPM2.5が上昇したというニュースがありました。年によって違いますが、最大800μg/m3を記録した年があるようです。最近では、爆竹を規制したりして200μg/m3台に落ち着いたというニュースもあります。(参考:『中国、138都市で爆竹禁止 18日から「春節」連休 大気汚染深刻化で』(産経ニュース)、『中国の春節、爆竹・花火は控えめ PM2.5も大幅減』朝日新聞ニュース:一般公開が終了しました)

今回USA Todayで取り上げられた研究、「Effects of Independence Day fireworks on atmospheric concentrations of fine particulate matter in the United States」(doi:10.1016/j.atmosenv.2015.05.065)は、それよりも悪そうな値を示しています。

全米315ヶ所あまりでの調査(1999年—2013年)で、独立記念日を祝う花火があがる時間帯から翌朝にかけてPM2.5濃度が上昇し、一日の平均値で環境基準の35μg/m3を上回った箇所が10地点あったと書かれています。15年間の平均値で上回った箇所が10箇所で、ぎりぎりのラインにある地点が他にもあるので上回った年も多かったと考えられます。

また、花火会場から近い計測地点では、15年間の平均値で一時的に500μg/m3を越える濃度を記録しています。爆竹よりも地上での煙が少ないのですが、恐ろしい記録です。また、この記録がとられた都市(Ogden, Utha)はユタ州の州都ソルトレイクシティの近くですが小さい町なので、花火も小規模だったと考えられます。

救いなのは、Figure3のグラフ上で普段の値と変わらない値を示している計測地点もかなり多数に上りますので、花火会場から遠く離れていれば影響はないといえると思います。個人的には、花火会場からの距離と方角と濃度上昇の関係を見たかったのですが、記載されていませんでした。全データが公開されていますので、ガッツがある人がいたら今後調べてくれるかもしれません。

防塵マスク

マスクをして花火見物

花火を見るのに、防塵マスクが推奨されたりしたら嫌だなあと思います。でも、データを見る限りしたほうがよさそうです。

人に健康影響を与える粒子状物質は、屋外だけではなく屋内も含めた様々な場所の空気に含まれ、それぞれの場所での暴露の量は地域・社会・個人により異なる。ただ、道路沿いなど発生源の近くを除けば、概ね屋外と屋内の濃度は同じか、屋内の方が少し低いという研究結果が得られている。また多くの研究において、屋外よりも屋内、PM10よりもPM2.5のほうが、それぞれ個人の暴露影響との相関性が大きいとされている。
出典:上記ウィキペディア、下線は管理人による改変です

といわれており花火を打ち上げている場所にもし小屋があれば屋内のほうが良いけれど、それ以外では屋内にいてもPM2.5濃度は屋内と変わらないようです。そのため、マスクは花粉症対策や感染症対策と同じものですが、花粉症対策の場合と違ってN95やN99マスク(日本の国家規格でDS2、DS3)でないと意味がないのではないかと思われます。これらの規格では0.3μmの粒子を95%以上もしくは99%以上捕まえるマスクをN95、N99と呼んでいますので、あまり売っていませんが80%以上のDS1規格マスクでも良いかもしれません。(参考記事『花粉症対策について調べた』『中東呼吸器症候群(MERS)』) 

ただし、PM2.5よりも粒子が細かいPM0.1のほうが害が大きかもしれないと調査が始まっているようですが、PM0.1はこれらのマスクでも防げません。遠くへ行くしかありません。PM10の調査の結果でも、粒子が2.5—10μmの粒子が悪いのか、PM10に内包されるPM2.5が悪いのかわかっていないようです。PM2.5とPM0.1の関係も同様でマスクをしたら健康被害を防ぐことが出来るかはわかりませんが、近年塵肺(細かい粉塵による肺疾患)の発症数が減少しています(参考:『日本のじん肺の現状について』日本職業・災害医学会)ので、効果は期待できると思います。

日常的に暴露するのでなく一時的ならほぼ問題ないと思いますが、今年の独立記念日は家の中でマスクをして過ごそうかとちょっと思ってみたり、しました。

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