少し前のニュースに、『コーヒー、緑茶で死亡減=9万人を追跡調査-がんセンター・東大』(時事通信)というものが出ていました。紅茶をよく飲むので、コーヒー・緑茶に代えたほうが良いようなデータなのかと思って調べてみました。

先に結論を書いておくと、たぶん「変える必要はない」と思います。

コーヒーや緑茶の研究

ここの記事の元になった研究をしている研究室を調べてみると、さまざまな食事の健康効果について大規模な調査(疫学調査)をして論文を出しています。記事の元になった論文は業績リスト上に今のところ出ていないか、古いものなのか、業績リスト上に関連論文が多すぎてわかりませんでした。

世界最大級の医学論文データベースである、PubMed(アメリカ国立衛生研究所NIHのデータベース)で調べても該当論文はわかりませんでした。

元の記事を良く見ると、

コーヒーや緑茶をよく飲む人は、心臓病や脳卒中で死亡する危険性が低いとの研究結果を、国立がん研究センターや東京大の研究チームがまとめた。
出典:前述時事通信記事

 となっているので、公表はまだなのかもしれません。

 

サラミ・スライシング?

該当する論文そのものは見つかりませんでしたが、関連論文はたくさん出てきました。基本的に、ひとつの研究結果で似たような論文をたくさん出版することは、サラミ・スライシング(salami slicing)と呼ばれ忌み嫌われます。日本語でかなり詳しく解説されているページを見つけましたので載せておきます。

複数の論文に1つの研究を報告することは常に間違ったことなのでしょうか?
いえ、実は例外もあります。

たとえば、

―もとのデータセットが非常に大きい場合(例:人口ベースの研究など)
―収集と分析に何年もかかるデータセットのような場合

このような場合において、著者には1本以上の論文にその研究を報告する正当で妥当な根拠があると言えます。
しかし、1本以上の論文にその研究の成果を発表する場合には、各論文にて、明確かつ重要な課題を取り上げるべきです。
出典:『<ドクターエディ・ラボ>よく耳にするサラミ法について (4)複数の論文に1つの研究報告が可能な場合』(Medister)

この研究は全国の9万人を対象に20年以上に渡って調査した結果ですので、似たような論文がたくさんあっても大丈夫なようです。疫学系の研究は大体これに該当しそうです。

ただ、結局全体的にどうなのか、時々はレビューも出してまとめて欲しいと思うのです。脳卒中への効果、がんへの効果、などなど、たくさんあって読みきれません。

 

緑茶の摂取と死亡率の関係

ピックアップした論文

たくさんある中、とりあえず一つだけピックアップして読んでみました。

Association of green tea consumption with mortality due to all causes and major causes of death in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (JPHC Study).」Annals of Epidemiology (IF2013 2.145)

研究は、開始時点でどれくらい緑茶を飲むかを何カップか答えてもらって、解析時点でどうなったかを調べる「前向きコホート研究」です。多数の人を調べる方法にはいくつかありますが、信頼性が高いほうだと思われます。人間は緑茶だけ飲んでいるわけはないので、他にも、コーヒー、紅茶、中国茶、ジュース、米、味噌汁、タバコその他たくさんの項目をアンケート調査して追跡しています。

また、コーヒー、緑茶、紅茶、中国茶の摂取量から大体のカフェイン摂取量を調べる調査を過去にしていて、たとえば男性の飲む緑茶一杯は140ml、女性は130ml、コーヒーは男性150ml女性120mlなどのような結果が出ているので、研究当初の時点で大体のカフェイン摂取量を概算しています。

さらに、アンケート調査ですので答えた量とある時点でどのくらい飲んだのか4週間調査した結果との相関関係も調べていますが、結果のデータには反映されていません。

研究結果は、COX比例ハザードモデルという多変量解析を使っています。これは、「緑茶と死亡率の関係に影響しそうな他の要素(交絡因子と呼ばれます)が死亡率に与えている影響を除く」ために使われる解析方法です。

同じような解析方法にロジスティック回帰分析というものもありますが、目的としては同じで交絡因子による効果を除いた結果を得るために使われる方法です。

ただ、交絡因子同士の交絡もあります。たとえば「緑茶をたくさん飲む人はジュースを飲む量が少ない」という要素は考えることは出来ますが、複雑になりすぎます。今回の研究でも、緑茶が多い人にジュースを飲む人が少ないという関係(負の相関関係)が認められていました。

(僕の理解では)結局のところ、どのくらい交絡因子の効果を除けているかの評価はできません。そういうことも検討したい場合には、もっと踏み込んで対象者を「緑茶を飲んではいけないグループ」「一日1杯飲む」「一日5杯飲む」グループに分けて、10年単位で実践してもらうという、恐ろしく時間と手間、費用がかかる研究にしなくてはいけません。

そういう研究をやろう、資金を出そうというのは、少なくともコーヒー・緑茶についてはあり得ないですから、この研究よりも信頼性が高い研究はおそらく期待できません。そのために、他の因子を考え合わせる多変量解析を行って、出来る限り信頼性の高い(と思われる)結果が出され論文にされています。

緑茶をたくさん飲む人は死亡率が低い

時事通信の記事になっていたように、緑茶をたくさん飲む人は、心疾患・脳卒中(脳出血・脳梗塞)で亡くなることが少なく、死亡率全体も低そうだいう結果が出ていました。

ピックアップした論文の結果では、緑茶を一日5杯以上(研究開始時点で)飲んでいた人は、

  • 心臓病での死亡率が低い
  • 脳卒中での死亡率が低い
  • 呼吸器疾患での死亡率が低い
  • ケガ・癌をのぞいたその他の死因での死亡率が低い

という結果が出ていて、データの数値が時事通信に出ていた緑茶部分と一致するので、緑茶データは2015年3月に発表されたものをコーヒーのデータと合わせて、報道発表したのだと思われます。

 

カフェイン摂取量と死亡率

ニュース記事を読むと沸いてくる疑問は、「紅茶・ウーロン茶じゃ駄目なの?」です。これを解決してくれる結果も、カフェインの摂取量と死亡率のデータとして補足に載っています。

著者の興味が薄いか、出ていないデータに何か無視できない交絡因子があって補足データになっているのだと思いますが、僕の興味は「紅茶では駄目なのか」です。

カフェインの多い飲み物といえば、栄養ドリンクやコーラなどだったりするのですが、毎日栄養ドリンク・コーラを飲む人は、このデータの「カフェイン摂取量」の計算では(たぶん)「ゼロ」になります。(たぶん)これがカフェインのデータが単独で論文にならない原因の一つなのかなと思います。

補足データの表4に出ていて、

男性

  • 全死亡率が低い傾向がある(偶然起こる確率は0.1%未満)
  • 心疾患での死亡率が低い傾向がある(同1%)
  • 脳卒中での死亡率が低い傾向がある(同1%)
  • 呼吸器疾患での死亡率が低い傾向がある(同0.1%未満)
  • ケガでの死亡率が低い傾向がある(同0.7%)

女性

  • 全死亡率(同0.1%未満)
  • 心疾患(同0.1%未満)
  • 呼吸器疾患(同0.8%)

というようなデータが出ています。このデータを見るときに考えることは、「偶然起こる確率」という部分でP値と書かれます。「偶然起こる」というところが肝で、普通は習慣的に5%未満ならば、「偶然ではない」とします。

しかし、この研究のように多くの要素を考え合わせる研究では、「偶然ではない」と考えるP値を下げます。遺伝子の研究などで顕著で、「100万個の要素を検討すれば、偶然起こる可能性が5%未満のものは偶然でも5万個近く起こってしまうので、当てにならない」という考えです。

この研究の場合、気分としては「全死亡率が低い」という結果だけを信じたいと思います。(呼吸器疾患は、肺炎・インフルエンザを含みます。肺炎は健康な人が突然かかる場合もありますが、他の病気が原因で体力が弱ったことでかかることも多い病気です。)

 

紅茶をコーヒー・緑茶に変えるべき?

このようなことから、紅茶でも良いと思います。「カフェインだったら良い」のではと思うからです。コーラで良いのかというと、データ的には「検討されていない」ということになりますが、糖分の取りすぎになりますし、ゼロカロリーのものに含まれる人口甘味料が糖尿病を引き起こすかも知れないというような話もありますので、おそらく「コーラでは駄目」ということになります(が実証はされていません)。

コーヒーの砂糖は良いのか、緑茶のお茶請けで和菓子を食べても良いのか、など疑問はつきません。

グダグダと長くなりましたが、疫学の研究結果は見えやすい結果だけに飛びついてはいけない、と思います。

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