2015年4月末にメリーランド州ボルチモアで暴動がありました。抗議デモの中から息子を見つけ出して叩いた母親の映像が流れました。この母親、トヤ・グラハム(Toya Graham)さんに地元紙がインタビューしていました。

ボルチモアの暴動

2015年4月27日、警察に逮捕されたときの扱いが原因で死亡したフレディ・グレイ(Freddie Gray)さんの葬儀があり、葬儀のために集まった群衆が暴徒したといわれています。暴動では、商店が放火されて略奪を受けたり、建物が放火されて消失した他、警官が15名負傷しました。別の記事『メリーランド州ボルチモアで暴動』『ボルチモア暴動の原因になった逮捕の顛末』にしてあります。

暴動後、ボルチモアでは非常事態が宣言され、1週間の夜間外出禁止令が発令されました。フレディ・グレイさんの家族が平和的な抗議活動を呼びかけた他、警察の調査結果が出た後ボルチモア市のMarilyn Mosby検事が次の日には関係した警官6人を殺人罪などで拘束した、などがあったためか、その後は平和的な抗議活動が続いています。

 

テレビで放映された親子

暴動が起きた日には、燃えている車や建物の映像が大きく報道されていましたが同時に、黒いマスクで顔を隠した青年を捕まえてたたく母親の様子が撮影され報道されました。日本でも、CNN.co.jpを始めいくつかの記事が出ていました。(参考『息子が顔隠してデモ参加、引きずり出してたたいた母が話題に 米』CNN.co.jp)

この親子は、トヤ・グラハム(Toya Graham)さんと16歳の息子Michael Grahamさんです。

アメリカのテレビ局CBSで独占インタビュー『Baltimore mom: To see my son at riots with rock in hand, "I just lost it"』を受けていました。石をもっていた息子を見つけ、我を忘れて群集の中から引きずり出して叩いていたそうです。この映像がテレビ局に撮影され、一躍時の人になり「ヒーロー:Hero」や「今年の母:the Mom of the Year」と呼ばれていました。

 

トヤ・グラハムさん

トヤ・グラハムさんは6人の子供を育てるシングルマザーだということは当初からわかっていたのですが、最初に話題になってからしばらくして、地元紙がもう一度インタビューをしていました。

Just over two weeks ago, Toya Graham was a recently unemployed single mother of six and grandmother of one struggling to scrape by in West Baltimore.
Today, she's the beneficiary of a growing GoFundMe page, and a scholarship fund has been established for her 16-year-old son. She's fielding job offers, she said, from BET, Under Armour and St. Joseph's Hospital.
"I told them all yes," she said. "I know I can't work all of those jobs. But, I didn't want to seem ungrateful."
出典:『For Baltimore 'hero mom,' video captures only part of her life's struggle』(Baltimore Sun)

「ビデオに写されたのは、「ヒーロー・ママ」の苦悩のほんの一部」という記事です。(辞書によると、struggleは特に貧困などを克服するための闘争だそうです。)

ビデオが放映されたことで、トヤ・グラハムさんはたとえば、オプラー・ウィンフリー(Oprah Winfrey)氏などの著名人(ウィキペディアによると、世界でもっとも裕福なアフリカ系アメリカ人だそうです。)からのたくさん賞賛されましたが、批判も浴び、さらに批判への批判もあったようです。批判内容は直接的には書かれていませんが、おそらくMichael Grahamさんへの暴力が子供への虐待なので許されないというようなものではないかと思います。

動画を見るとかなり激しく叩いているので、どちらかというと非難を浴びるのかなと思っていたのですが、賞賛されているほうが多かったようです。アメリカは日本よりもこの点ではずっと厳しいので、賞賛されたのは報道のされ方と世相なのかなあと思います。

トヤ・グラハムさんは、シングルマザーで職を失っていましたが、このビデオで有名になったために、クラウドファンディングに成功し、息子への奨学金を調達しました。さらに、就職口のオファーも少なくとも3つ以上あったそうです。

 

職務上の怪我で解雇?

この一件がなければ、奨学金も仕事のオファーもありませんでしたので、シンデレラストーリー的ではあります。しかし、

After moving her family from Park Heights to a larger rowhouse in West Baltimore, the 42-year-old health care worker injured her back on the job; she eventually lost her position as a caregiver. She made ends meet with the help of her significant other and an older daughter. Graham also enlisted the help of social services.
To compound matters, Graham said, past legal trouble kept her from getting new employment.
"If you have any criminal background it is hard to find work," she said. A court records search showed Graham was charged with second-degree assault in 2002, but the case was dismissed.
出典:Baltimore Sun記事

もともと医療系のヘルパーとして働いていましたが、仕事で負った背中の怪我が元で仕事を失ったと書いてあります。日本では仕事で怪我した場合には、労災制度があったり、解雇には制限があったりしますが、アメリカにはそういう制度は基本的にはありません。

幸い、僕の同僚にはそういう人は今のところいませんが、「いざ病気になったら、保険なんて使えないんだ」と言っている人は多くいます。少し前に話題になった本『沈み行く大国アメリカ』に出ていたように保険の支払いを拒否されて医療を受けられないような例もあるかもしれませんし、病気になったことで職を失う可能性は間違いなく日本よりも高いと思います。

ただし、日本では失職後の再就職がアメリカよりも難しいのですが、トヤ・グラハムさんは仕事を見つけるのが難しかったようです。

(日本の医療制度についての第2作『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉 (集英社新書) 』(リンクはAmazon)が出版されています。)

 

犯罪歴で仕事がない

インタビューでは、2002年に犯罪歴があるため、仕事を見つけるのが難しいということも書いてありました。日本でも、犯罪歴があったら見つけにくいと思うのですが、アメリカの場合には犯罪歴は公開されていて検索することができますので、よりペナルティが大きくなると思います。

チームはアメリカ労働省が編纂した若年労働者の全国長期調査記録を元に、18歳から23歳の男女の逮捕歴を調査。逮捕歴にはスピード違反・駐車違反などの軽微な犯罪を除き、無断欠席から飲酒、さらには暴力まであらるものが含まれますが、それらを集計した結果がこのようになりました。

  • 18歳までに黒人男性の30%、ヒスパニック男性の26%、白人男性の22%が逮捕される
  • 23歳までに黒人男性の49%、ヒスパニック男性の44%、白人男性の38%が逮捕される

一方、女性の場合は人種差はほとんど見られなかったようです。

  • 18歳までに黒人女性の11.9%、ヒスパニック女性の11.8%、白人女性の12%が逮捕される
  • 23歳までに黒人女性の16%、ヒスパニック女性の18%、白人女性の20%が逮捕される

アメリカは自由な社会である分、自分のことを証明する書類や記録が大きな意味を持ちます。逮捕歴があると就業や居住の審査をパスできない、高等教育のための費用を借りることができない、選挙ボランティアや養子縁組もできないなどといった不都合が発生します。
出典:『アメリカでは23歳までに黒人男性の半数、白人男性の40%が逮捕される』(デイリィニュウスエイジェンシー)

男性は半数近い人に逮捕歴があるようですが、女性はより少ないので目立ちやすいのかもしれません。

 

トヤ・グラハムさんのインタビュー

いろいろ書いてありますが、凄いと思うところは、

"People are going to have their opinion," she acknowledges. She would just rather not read about it.
"I've told my girls that if you see anything that is negative about me, don't tag me or respond," she said. "I live by the belief that sticks and stones will break my bones, but words will never hurt me."
出典:Baltimore Sunの記事

 です。こういうところは、見習えると良いと思います。

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