解熱鎮痛薬として広く使われているアセトアミノフェンが、「変形性関節症・腰痛などの痛みには効かない」という論文が出ていました。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェン(タイレノールTylenol)はアメリカではイブプロフェン(アドヴィルAdvil、モトリンMotrin)と並んで良く見かける解熱鎮痛薬です。処方箋なしで購入できる解熱鎮痛薬には他にアセチルサリチル酸(アスピリンAsripin)もありますが、アセチルサリチル酸は解熱鎮痛薬というよりはどちらかというと低用量で血栓予防として用いる用途のほうが最近は多いと思われますので、解熱鎮痛薬コーナーに置いていない場合も多いです。日本では、ロキソプロフェン(ロキソニン)を処方箋なしで購入できるようになっていますが、アメリカにはありません。

アセトアミノフェンの歴史は古く100年以上前から医薬品として作られています。そのためか、販売されるブランド名がたくさんあり、「アセリオ」、「アトミフェン」、「アニルーメ」、「アフロギス」、「アルピニー」、「アンヒバ」、「カルジール」、「カロナール」、「コカール」、「サールツー」、「タイレノール」、「ナパ」、「パラセタ」、「ピリナジン」、「ピレチノール」などがあります。成分名の「アセトアミノフェン」としても販売されています。処方薬として見る場合には、地域・病院でどこのメーカーから買っているかによりますので、僕の場合は「アルピニー」「アンヒバ」「カロナール」を主に子供の座薬やインフルエンザの解熱用などに使っていました。

その他、「ノーシン」「PL顆粒」などの風邪薬の解熱成分として含まれています。

下の論文に出てくる名前、パラセタモール(Paracetamol)はアセトアミノフェンの別名です。

アセトアミノフェンの良い点

  • 「アスピリン喘息」の患者さんでも安全(らしいといわれている)
  • 胃にやさしい
  • インフルエンザの解熱に使われる

アセトアミノフェンの悪い点

  • 肝臓への負担が大きい
  • 効きが弱い気がする

日本では、上記のように「効きが弱い」という意識でいました。アメリカに来てからは「意外に良く効く」と思っています。原因は日本とアメリカで使う量が大きく違っていて、アメリカで市販されているものは大人用で一回最大1gもあるからです。ただし、日本では風邪薬にも含まれていますので、気づかずに服用しているかも知れません。アメリカの最大服用量の場合には安全域が狭いので、気をつけて飲まないといけません。

僕は「効く」と思っているのですが、人によっては「効かないから嫌い」という人も多い薬です。どんな薬でも個人差があるのは当然ではありますが、2015年3月31日に出た研究報告を読んだところ少し納得できました。

 

ヒト用アセトアミノフェンはイヌ・ネコには危ない

また、今回調べていて知った事実に、「犬・猫はアセトアミノフェンへの耐性が低い」という話がありました。家にあるアセトアミノフェンの錠剤・カプセルを落としたり、粉末をこぼしてしまった場合に、ペットが食べてしまうと危ないかもしれません。具体的にどのくらいで中毒に至るのか、今回見た情報の中には含まれていませんでしたが、ヒトの極量が3000mgなのでアメリカで販売しているカプセル・錠剤なら一つで確実に、日本のものでも約一つで、体重換算した場合のネコの極量を超えてしまいます。危ないので、ペットを飼っているなら気をつけたほうが良いでしょう。

ネット上の情報で、アセトアミノフェンの猫半数致死量が50–100mg/kgと見つけました。体重5kgでも、アメリカで手に入るアセトアミノフェン500mg錠を誤って飲んでしまうと危険です。

 

アセトアミノフェンは腰痛や関節痛には効かない?

Acetaminophen -- best known as Tylenol in the United States -- does not appear to help ease lower back pain and offers little relief for the most common form of arthritis, according to a new report.
The researchers analyzed 10 studies that examined the use of acetaminophen to treat osteoarthritis of the hip or knee, and three studies that assessed the use of the painkiller for lower back pain.
Osteoarthritis -- the most common form of arthritis -- and back pain are among the leading causes of disability worldwide, the researchers said. Current clinical guidelines recommend acetaminophen as the first-line drug treatment for both conditions.
出典:『Study Casts Doubt on Acetaminophen for Low Back Pain, Arthritis』(US News Health)

 

今まで発表されている13の論文を調べ、横断的に解析(メタアナリシス)した結果、推奨されている疾患である股関節・膝関節の変形性関節症(骨関節症)、腰痛への効果が見られなかったという内容です。

今回の論文以前にも同様の指摘はされていて、2013年にはアメリカ整形外科学会のガイドラインで扱いを下げられています。

 2013年5月にアメリカ整形外科学会は、2008年に初めて作成された変形性膝関節症治療ガイドラインの改訂を行いました。改訂のポイントは、これまで初期の薬物治療で使われていたアセトアミノフェンという薬剤の使用推奨度を引き下げたことです。
 変形性膝関節症の薬物治療では、従来からアセトアミノフェンとともに非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されていましたが、NSAIDsは服用すると胃が荒れることがあるため、アセトアミノフェンは頻繁に使用されてきました。
出典:『転換期を迎えた変形性膝関節症の薬物治療』(QLife)

 

アセトアミノフェンの他の作用

他の解熱鎮痛薬(NSAIDs)と違う作用機所のせいか、感情を鈍化させてしまう副作用もあるらしい、という論文も最近出ています。

A new study published in the journal Psychological Science suggests this popular drug could dampen a person's emotions -- both good and bad. This may be related to the fact that pain travels from injury through nerve signals and affects serotonin and other chemicals that control emotional response.
"It is a little bit of a red flag for people who take it every day. You don't want to blunt feelings of happiness," said Phillips.

出典:『Acetaminophen may dull your emotions』(CBS News)

A new study has found that acetaminophen, the main ingredient in Tylenol, most forms of Midol and more than 600 other medicines, reduces not only pain but pleasure, as well.
出典:『Study: Acetaminophen reduces not only pain, but pleasure, too』(CNN.com)

精神医学系の雑誌に掲載された論文で発表されているようです。興味はありますが読んでいません。

 

BMJの論文

BMJは2013年のトムソンロイター社インパクトファクター(ある雑誌に載った一報の論文が翌年と3年目に引用された回数を2で割ったもの、注目される雑誌は数値が高く、Natureは42)は16.378で、総合医学雑誌の中では4番手につけています。

発表された論文は、『Efficacy and safety of paracetamol for spinal pain and osteoarthritis: systematic review and meta-analysis of randomised placebo controlled trials』というタイトルでオープンアクセスジャーナルと呼ばれるタイプのものですので、誰でもインターネットで読むことが出来ます。画像の引用などは許可が必要なので、興味がある方は目を通してみてください。

メインの結果はFigure 3で、副作用はFigure 4で示されています。結論としては、

  • 腰痛にはアセトアミノフェンの効果がなかった
  • 変形性関節症には、アセトアミノフェンの効果があったが小さかった
  • アセトアミノフェンによる肝障害があった
  • 胃痛など他の副作用については解析されていない
  • 元になる研究が長期間追っているものが少ない・ないため、3ヶ月以上使った場合の効果は不明

としています。変形性関節症に対しては、痛みスケール(VAS:全く痛くないをゼロ、想像できる最高の痛みを100として数字を答えさせる)で–3.7程度の効果が認められているものの、真の値は高く見積もっても–5.5で著者が「有効」と判定する閾値–9に達しなかったため、無効と結論付けています。効果はあるけれど、弱いので意味がない、ということです。

ただし、閾値を–9にすることに意味があるのかどうかはこの論文からは分かりません。他の薬剤や手術と比較してどうか、ですが・・・。

他の症状に対しての効果がどの程度あるのか、も見ないと結論は出ないと思いますので、また時間のあるときに探して見たいと思います。

今回の論文と同時に出ていたEditorial(編集コメント、こちらはオープンアクセスではありません)『Managing back pain and osteoarthritis without paracetamol』(リンクはNCBI)には、

  • 脊椎の痛み、関節痛は一般医へかかる理由の10-15%(BMJはイギリスの雑誌なのでイギリスの数字だと思います)
  • 局所NSAIDs(湿布など)は副作用が少なくて良い
  • 運動・鍼灸を勧める

と出ています。

そのまま受け取れば、少なくとも論文で使われているよりも低用量で使っている日本のアセトアミノフェンではより効きにくいのではないかと思われます。日本人にはよく効くという論文でもあれば別ですが、僕が腰痛のときにアセトアミノフェンを飲むかと聞かれたら、これからはアセトアミノフェンではなく他の薬(アメリカではイブプロフェン、日本だったらロキソニン)と答えるでしょう。

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