「レセプト債」なる物を発行・運営していた会社が経営破たんしたというニュースが出ています。レセプトは聞きなれた言葉ですが、レセプト債というのは知りませんでした。

レセプト債破たん

読売新聞ニュースでニュース配信されています。

医療機関の診療報酬請求権を基に、資産運用のための債券(レセプト債)を発行しているファンド3社と運用会社1社が破綻し、顧客への配当が止まったことがわかった。
3社の発行債券の残高は約227億円に上るが、数千人の顧客が償還を受けられない可能性がある。ファンドの決算内容に不審な点があることから、証券取引等監視委員会が調査を始めた。
出典:『レセプト債4社が破綻、227億円償還不能か』(読売オンライン)

レセプトとは何か?

レセプトとは、ドイツ語の”rezept”を日本語読みしたものです。英語の似た単語、"receipt"と語源は同じですが、ドイツ語では、「処方箋」、「治療」、「治療法」、「レシピ」などの意味で使われるようです。略されて「レセ」と呼ばれることもあり、また「レセプト作成・提出業務」を指して「レセ」と呼んだりもします。

医療機関で作成され、健康保険の支払い基金に提出される診療報酬明細書、調剤報酬明細書のことを指します。これを提出することで、医療機関は健康保険から支払われる分の医療費を受け取ることができます。

毎月月末締めで集計し、翌月の5日(国民健康保険)と10日(社会保険:被用者保険)に提出されます。月末の診療分は書類作成までの猶予が少なく、また月をまたいで入院されている患者さんの請求は月末まで確定しないのにすぐに提出期限を迎えますから、月初めは必然的にバタバタすることになります。

提出後、審査されて翌々月に支払いが行われ、一部疑義があり支払いが行われない分は差し戻されます。

医療機関への報酬と差益・差損

現在は健康保険の支払い分は基本的に7割になっています。生活保護の場合は生活保護費から10割です。患者さんが窓口負担した分は、その場で現金で支払われるか、クレジットカードの場合は後で支払われます。

一方、人件費や材料費、光熱費などの必要経費は診療が行われるたびにかかってきます。特に材料費に関しては、「薬価差益」と言われて騒がれたのは今は昔で、製品によるもののほとんどないか、最悪の場合は仕入れのほうが高くなったりするようなこともあるようです。また、欠かせないけれど費用が請求できないものもあります。

必然的に、少しでも気に入ったもの(使いやすさ、性能、その他)を使いたがる医療者と、少しでも原価が低いものに切り替えたい経営者が対立するという構図がほぼ全ての病院で現れます。

処方箋取り扱いの薬局でジェネリック医薬品を勧めるのは、患者さんの負担を減らす(ジェネリックの公定価格はある程度低く設定されます)という理由だけではなく、仕入れ原価という面も少なからずあるはずです。後発品を入れることで得られる診療報酬加算と原価率でいろいろあるようです。(参考:ジェネリック医薬品で先発品並の利益を出すには』みやび日記) 

レセプト債とは何か?

「レセプト債」は、「レセプト」による保険支払基金からの支払いを債権化したものだそうです。

医療機関は、医療行為を行った時点で保険者に対して、診療報酬を請求して受け取る権利を有しているが、保険者から報酬が支払われるまでには、必ずタイムラグが発生している。
医療機関にとっては、このタイムラグを解決して資金調達の迅速化を図ることが経営の課題であるが、その問題を解決する仕組みとして、診療報酬を受け取る権利自体を証券化したものがレセプト債と呼ばれている。
一般的に、債権者が売掛債権を債権回収会社(ファクタリング会社)に売却して、債権を譲り受けた債権回収会社がその企業に成り代わって売掛債権を回収するファクタリングビジネスと診療報酬の証券化を組み合わせたものとして考えられている。
アメリカや日本の、一部の短期資金確保に悩む医療機関が、民間保険会社(アメリカの場合)または国保若しくは社保(日本の場合)に対する診療報酬債権(=医療売掛)をファクタリング会社に年利数十%に相当する金利相当分を差し引いた額で割引譲渡し、ファクタリング会社はこの債権を証券化して系列の特定目的会社(SPC、Special Purpose Corporation)に譲渡する例はあるが、医療債権自体が金融商品として市場で流通・取引されることはない。
出典:『レセプト債』(ウィキペディア 最終更新 2015/11/8 03:14)

医療機関に支払われる診療報酬が、医療機関が支払わなくてはいけない費用に間に合わない場合に発行されるものだそうです。債権の残高が227億円ということですから、2ヶ月くらいで償還されるものとしては意外と使われていたのだなと思います。

2012年時点で健康保険からの支払い総額は約18.2兆円ですから、2ヶ月で約3兆円なので、単純計算(して良いものか知りませんが)すると健康保険からの支払いの7%程度もあったのかもしれません。

利率?

ニュース記事を見ると、レセプト債を購入すれば年利が数%と書かれていました。ウィキペディアの記述が正しいのかわかりませんが、レセプト債を利用する医療機関は年利数十%分を差し引いた分しか報酬が得られないようです。

ゼロ金利で、消費者金融の利率ですら15%の上限の時代に、数十%と言うのは如何にも高いです。発行元にとっては、利益が大きい債権のように見えますが、なぜ破たんしたのでしょう?

レセプト債が破たんしそうな原因

高収益に見えるレセプト債ですが、考えられる原因はいくつかあります。

支払い基金からの支払いが行われない場合

最近ニュースになっていてしばらく世間を騒がせることになりそうな、組織的な診療報酬不正請求が一つの原因として考えられます。

診療報酬は不正請求でなければ、健康保険組合側からほぼ確実に支払いが行われるため、これを基にしたレセプト債は一般的に安全性が高いとされている。
出典:『証券会社も「寝耳に水」の事態…レセプト債破綻』(読売オンライン)

保険組合からの支払いが行われる前に債権を発行していますので、医療機関側とどういう契約をしているか知りませんが、支払いが行われなかった場合に損害賠償を求めるようなことはなかったのかもしれません。

また、不正請求ではなくても、疑義があったり過剰医療と認められる場合には支払いが行われずに医療機関へレセプトが差し戻されます。医療機関側では返戻された分を認めてもらうために再審査請求をしますが、既に医療機関側への支払いが債権の発行という形で行われていたら再審査請求を行う理由がありません。

なお、過剰医療というのは、保険基金側が「この病名なら薬は何日分、手術はこの手術だけ」などと決めている分を超過したもののことで、無駄な、不要な医療というわけではありません。

レセプト債の利用率低下

レセプト債を利用すると得られるはずだった診療報酬が大幅に割り引かれてしまいますので、健全な医療機関は利用しないと思います。

日本で働いていた病院では、かなり遠い記憶なので定かではありませんが、僕の診療科では査定率(請求が認められず返戻される分)がレセプト枚数で1%以下、金額でも1%以下で、病院全体でも枚数で2%くらい、金額で2~3%以下(ココはたぶん間違いでした)だったような気がします。全国平均で査定率は金額で0.25%(2015年9月)でした。

いずれにしても、2ヵ月後に95%以上が支払われるとわかっていれば、わざわざ報酬がより少なくなるレセプト債を利用するよりも、銀行に頼るほうが良いですし、銀行としてもそれほど悪い融資先とは思わない気がします。

が、レセプトは個人情報ですから銀行に見せるわけにはいきません。従って、銀行としては医療機関の見込み収入は経験的にしかわからず、「来月には1億円入ってくる」と言われても信じられるかわからないというリスクがありますので、一度トラブルを起こした医療機関は「レセプト債」に頼らざるを得なくなる可能性はあります。

レセプト債券という運用がまだ行われているとは思わなかった。一度か2度聞いたことはあるが、たぶん、医療機関の関係者も知っている人は少なく、これを活用して資金を集める医療機関は多くないだろう。
そもそも、病院や薬局が診療報酬の権利を売って、金を立て替えるというビジネスは投資としては成立しない。医療関係者なら、多くはやっぱりかという程度だろう。この債券なら大手の証券会社は参加していないと思われる。
出典:ブログ記事『レセプト債4社が破綻、驚くべきはまだ存在したこと。』(なんとなく綴ってみた)

僕は2015年11月の破たんニュースを見るまで「レセプト債」という言葉を聞いたことがありませんでした。

債権を利用する医療機関が減れば、運営にかかる人件費やシステム費用などの固定費が重くのしかかりますから、レセプト債の利用率が減ったということもあるかもしれません。

ファンド自体の不正

「レセプト債」の仕組みは、

  • 医療機関が支払うコストが大きく
  • 発行する側の利益が大きい

ように見えます。最初のニュースで「決算に不審な点があり証券取引等監視委員会が調査」とありますので、仕組みの問題というよりは、運営会社の問題だったのかもしれません。

たとえば、邪推すると「ファンドの運営会社から病院の会計担当者や決定権者などに裏金を出していた」という話だとつじつまが合うようにも思います。

 

 

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