メリーランド州ボルチモアで、白人警官が黒人男性を逮捕する際に頚椎損傷させて死亡させた事件が2015年4月12日(死亡は19日)にありました。その後、ボルチモアでは暴動が起こっており、ニュース映像を見るとかなり大変なことになっています。

ボルチモアのニュース映像

CNNに暴動の様子が多く投稿されています。

この日20人の警官が負傷し、6人が重症一人は意識不明だそうです。

日本のニュースでも少し取り上げられていますが、インターネット上で見ることの出来る日本のニュースに出てくる映像は平和的にデモしている写真だったりするので、だいぶ違います。

 

Freddie Gray(フレディ・グレイ)さん死亡事件

フレディ・グレイさんが逮捕時に死亡したときの状況について、英語のニュースソースで見つからなかったので産経ニュースから引用します。(詳しい状況の英語記事を見つけたので、別の記事『ボルチモア暴動の原因になった逮捕の顛末』にしました。)

 死亡した黒人男性は12日、警察の職務質問を振り切ろうとして拘束され、刃物を隠し持っていたため逮捕された。連行中の警察車両内で脊椎損傷の重傷を負い、19日に死亡した。負傷の原因は不明。
出典:『米東部ボルティモアで人種暴動 州知事が非常事態宣言、州兵出動』(産経ニュース)

アメリカでは、少なくとも当初は逮捕時の映像と、男性が死亡した事実、警官6人が処分を受けたという3点だけが公開されていました。ナイフはしまった状態でポケットに持っていたようです。ニューズウィークのコラムを執筆されている冷泉彰彦さんの記事には、

 結果的に、このウォルター・スコット事件では警官は「第一級殺人」で起訴されており、抗議行動は起きたものの暴徒化することはありませんでした。
 一方で、4月12日にメリーランド州のボルチモアで、25歳のフレディ・グレイさんという男性が死亡した事件は、未だに解明が進んでいません。グレイさんは、パトロール中の警官に尋問を受けてもみ合う中で逮捕され、護送される途中で意識不明に陥り、直後に死亡しています。診断は「脊髄の損傷」ということですが、原因は解明されていません。
 グレイさんに関しては、麻薬取引の前科がある一方で、生まれ育ったコミュニティが汚染されていたことで、慢性の鉛中毒に苦しんでいたという報道もあります。その病気のために、行動が落ち着かないという面があったという説もありますが、真偽のほどは分かりません。分かっているのは、6人の警官がグレイさんを取り押さえようとしたこと、結果的に逮捕されたグレイさんが直後に急死したということだけです。
 この事件は、情報公開が進み警官も起訴されたウォルター・スコット事件の直後に起きただけに、特にボルチモア市警の不透明性が批判を浴びました。事件から2週間を経た現時点でも、死因の解明や6人の警官の容疑について、一貫した説明はされていないのです。
出典:『依然として止まらない米警官による黒人殺害事件』(プリンストン発日本/アメリカ新時代 by 冷泉彰彦)

とあります。産経新聞ニュースの記事よりは、ニューズウィークのコラムのほうが少なくとも「アメリカの市民が感じた《事実》」という意味で正確だと思います。もう少し言うと「警官が護送車まで拘束時に脊髄損傷させてその後死亡した男性を、き摺った」とニュースを見ていて僕は感じました。

フレディ・グレイさん逮捕時の映像を放映したビデオ(CNN.com公式)がYoutubeに載っています。逮捕時の様子は最初に少し出てきますが、全容が見えるのは1分42秒からです。

ビデオ映像ではフレディ・グレイさんの様子がおかしいようにも見えます。

 受傷現場から移動する場合、必ず頭部と体幹を一体として扱うことが大切です。これは不適切に患者さんを移送することによる二次的な脊髄損傷を予防するためで、マジックベッドなどを使うのがよいでしょう。
出典:『脊椎損傷の症状と原因』(GOOヘルスケア)

脊髄損傷した人を引きずっていくのは、あってはならないことです。引用したのは脊椎損傷の場合の話ですが、少なくとも日本では交通事故などで救急搬送する場合には異常がないと確認されるまでは固定用ボードに固定して、脊髄損傷を防ぐ処置を取ります。

ニュース映像を少しだけ見ただけだった僕は、暴動になる程の事件だと思わなかったのですが、前述のニューズウィークコラムを読んで納得しました。

ニューズウィークの記事では、「麻薬取引の前科がある」と書いてありますが、28日に公開された情報によると、日本だったら「札付きのワル」と呼ばれそうなくらいの犯罪歴がありました。ミズーリ州ファーガソンの事件では抗議活動が起こっている最中に、死亡したマイケル・ブラウンさんが事件の直前に強盗を働いていたとする防犯カメラの映像を公開しました。同じような意図があるのかわかりませんが、ファーガソンの場合は火に油を注ぐような結果になっていました。

 

メリーランド州ボルチモア

今回の事件が起こり、暴動が起こっているのは、先日『フィラデルフィア市警察の発砲事例(2007-2014年)』をまとめていたペンシルベニア州フィラデルフィアと首都ワシントンDCの中間地点で、大都市のひとつです。

大きな都市は大体どこも治安が悪いことで知られています。ボルチモアも例外ではなく、治安が悪い都市ランキングでワースト10に入っています。

その印象は一言で言えば、危険な場所であるということだ。電車でボルチモアの駅に到着したのだが、目的地である大学は歩いて15分くらいの場所にあり、荷物も多くなかった。そこで歩いて行こうと思ったのだが、駅から100メートルほど行くと、ボルチモアのメインストリートであるにもかかわらず、誰も歩いていない。店らしき建物はあるのだが、軒並み閉まっていた。異様な雰囲気を感じて駅に引き返し、タクシーで大学に向かったのである。今から考えてみると、ボルチモアの市内は軒並み治安が悪く、安全な場所を探したほうが早いというくらいのものであったのである。それもそ のはずで、ボルチモアは危険な都市として全米6番目にランクされていて、年間の殺人事件は300件を超え、警官もよく殺されている。当時はそのようなことは知らず、アメリカとはすべてこのようなものかと思ったものである。
友人の一人は以前危険なブロックから一本通りを隔てたアパートに住んでいたが、向かいのブロックからよく銃声が聞こえてきたらしい。しかし彼のブロックでは何事も起こらずまったく問題なかったそうである。銃声といえばわたしも慣れない場所を歩いていたときに、やはり、危険な雰囲気を感じて人の気配のあるブロックへ戻って行ったことがあるが、ちょうど歩いてきた場所で銃声が何発も聞こえて来たことがある。多少慣れてきてあまり危険性に注意を払っていなかったためであろうが、少々肌寒い思いをしたものである。
出典:『アメリカというか、ボルチモア』(個人ウェブサイト)

銃声が聞こえてきて、「少々肌寒い」だけだというあたり、治安の悪さを物語っていると思います。(情報は2000年のものです。)

治安が悪い街とはいえ、先進国アメリカの首都近くの大都市で暴動が起こっているのは衝撃的に思えます。

 

4月27日、200人逮捕された

CNNニュースを見たら、昨日から今日にかけて車144台、建物15件が燃やされ、200人近く逮捕されたようです。

That was the stark reality Tuesday after a day and night that saw nearly 200 arrests, 144 vehicle fires and 15 structure fires, according to city official Howard Libit. All of it transformed Baltimore from a place to live, work and play into what resembled a war zone.
出典:『Baltimore riots: Security beefed up after looting, fires engulf city』(CNN.com)

アメリカの過去の暴動といえばロサンゼルス暴動を思い出します。ロサンゼルス暴動は全部で逮捕約1万人・死者53人だったので今のところそこまでは悪くはありませんが、昨年のファーガソン暴動より大きな暴動になっています。

 米CNNテレビによれば、ロサンゼルスでは同日夜、住民ら約150人が抗議デモを行った。25、26両日の逮捕者数は約190人に上っている。
 ロイター通信によれば、白人警官に不起訴処分が下された24日以降、全米での逮捕者は400人を超えた。
出典:『セントルイスで警官隊と衝突、3人逮捕 白人警官不起訴以降400人超』(産経新聞ニュース)

ファーガソンは、ミズーリ州セントルイス郊外の小さなエリアですので、大都市であるボルチモアと単純比較はできませんが、

First wave: August 9, 2014 – August 25, 2014 (2 weeks and 2 days) Second wave: November 24, 2014 – December 2, 2014 (1 week and 1 day)

Arrests and injuries

Injuries 7 members of the public injured
6 police officers injured
Arrested 205 members of the public
出典:『Ferguson unrest』(Wikipedia 最終更新 2015/4/28 12:50)一部改変しています。

と3週間での逮捕者が205人でした。

 

4月28日、夜間外出禁止令

夜が明けて28日は、略奪の痕などが報道されてはいますが、おおむね平和的だったようです。

また、1週間の夜間外出禁止令(午後10時から)が発令され、大きな混乱はなかった(警官2名負傷)ようです。

ただ、議会の周りは警備され、

物々しい雰囲気は続いています。3000人態勢で警察・兵士が警備しているようです。学校は28日は閉鎖されていて、29日から再開するそうです。

参考記事:『Baltimore: After riots, protesters and police ensure peace』(CNN.com)

 

また、今回の暴動のきっかけになったFreddie Grayさんの犯罪歴が公開(記事『ボルチモア暴動の原因になった逮捕の顛末』)されました。

 

4月29日、暴動はないが大きいデモが各地に拡がる

非常事態が宣言され、夜間の外出禁止令が出ているボルチモアでは、昼間のデモは2000人と大きかったようですが、10時以降は外出禁止令のために人が減っていたようです。3時間程度の距離にある、ニューヨーク市では大きな抗議活動があり、60名以上逮捕されました。また、マサチューセッツ州ボストン(ハーバード大学やMITがある町)で1000人以上、ミネソタ州ミネアポリス(北部の町で全米最大のショッピングモール(記事『ショッピングモールへのテロ警告』)があり、住みたい町でナンバーワンを取っている)でも1500人以上の規模で抗議運動があったそうです。

参考記事:『Freddie Gray: protests across US as Baltimore forced to free 100 suspects』(the Guardian)

大リーグ史上初の無観客試合

また、日本でも報道されていたように、ボルチモアを拠点にしているMLB(大リーグ)チーム、ボルチモア・オリオールズとシカゴ・ホワイトソックスの試合が大リーグ史上初の無観客試合で行われました。

参考記事:『大リーグで無観客試合』(ロイター:記事の掲載が終了しました)、『Baltimore Orioles Play Game Closed to the Public: Social Media Timeline』(Wall Street Journal)

英語記事には「スカウトが3人だけ座っていたよ!」というツイートが貼ってありましたが、観客はゼロでした。

 

4月30日、護送車にいた別の男性の話

4月29日の夜、Freddie Grayさんが受傷したとされる護送車に乗っていた別の容疑者の話がウォールストリートジャーナルに載りました。30日には、ほかのメディアでも一斉に報じています。

Allen described what he heard: "When I got in the van, I didn't hear nothing. It was a smooth ride. We went straight to the police station. All I heard was a little banging for about four seconds. I just heard little banging, just little banging."

出典:『Second man in police transport van speaks out』(WBALTV)

護送車の内部は2つのパーティションで区切られていてお互いには見えないようで、ぶつかる音が4回聞こえただけだったと言っています。CNNの記事『Report: Freddie Gray sustained injury in back of police van』では、同じ容疑者が「Gray was trying to hurt himself」していて、護送車の中で致命傷を負ったようだと書いています。

WBALTVの別の記事では月曜日から今までで警官98人が怪我をしたということです。

また、今回のFreddie Grayさんの調査結果が検察に送られたようです。

 

5月1日、警察官が殺人で告発される

4月27日月曜日のような暴動は起こっていないものの、抗議活動自体は日増しに大規模になっているようです。

Freddie Grayさんの死亡にかかわった警官たちが告発されました。以前の黒人死亡事件では、告発はされたものの起訴はされませんでした。

One officer -- the driver of the police van -- has been charged with several counts, including second-degree depraved-heart murder. Another officer has been charged with several counts, including manslaughter and involuntary manslaughter. Two other officers have been charged with several counts, including involuntary manslaughter. An additional two officers are charged with several counts, including second-degree assault.
出典:『Freddie Gray death ruled homicide; officers charged』(CNN.com)

毎日新聞ニュースに日本語で記事が出ました。参考:『米・黒人死亡:警官1人殺人、3人過失致死容疑で逮捕状』(毎日新聞)[記事の掲載が終了しました]

護送車を運転していた警官は第二級殺人でも告発されています。第二級殺人は第一級殺人よりは軽く、計画によらないものです。日本では罪名としては区別されませんが、計画的殺人(旧刑法では謀殺)とそれ以外(旧刑法では故殺)は日本でも刑の重さが違います。

"Depraved-heart murder"は、直訳すると「堕落した心による殺人」ですが、規定されていて

Depraved-heart murder

Depraved-heart murder, also known as depraved-indifference murder, is an American legal term for an action that demonstrates a "callous disregard for human life" and results in death. In most states, depraved heart killings constitute second-degree murder.
出典:『Depraved-heart murder』(Wikipedia 最終更新 2015/5/2 15:03.)

人命軽視の結果起こった死亡で、日本では「不作為による殺人」に該当しそうな気がします。

 

5月2日、家族は平和的行動を呼びかける

ボルチモアでは、今までで最大級、10,000人規模のデモ行進が予定されているようです。Freddie Grayさんの義父は平和的な行動を呼びかけています。

“And if you are not coming in peace, please don’t come at all because this city needs to get back to work. The last thing Freddie would want is to see the hard-working people of Baltimore to lose their jobs and businesses because of his death,” said Richard, Gray’s stepfather.
出典:『Family Happy About First Step In “Justice For Freddie”』(CBS Baltimore)

夜間外出禁止令がまだ有効で、午後10時以降も残っていた人は数十人逮捕されたようですが、大きな混乱は報じられていません。

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